2018春_vol44
20/25

満開の桜に思いを馳せるふるさと“秩父”は関東の中でも少しだけ“桜”の開花が遅い。子供の頃は近所の人と連れだって、羊山公園というお花見の名所に出掛けて、楽しい宴会をした。色々なレジャーがあるわけでもない時代だったから、とりわけ“お花見”は楽しかった。桜の下でお父さん、お母さんの笑顔、近所の人の笑い声。手拍子に乗せて唄う歌声。桜に負けないくらいの笑顔の満開があった。高校生くらいになると親とお花見に行くことが、なんとなく恥ずかしくなって、いつの間にか家族みんな   行かなくなってしまった。姉や兄に子供が産まれてから両親は再び、孫たちとの“お花見”を楽しむようになった。あの時、桜の下で走りまわっていた子供たちが、自分の子供たちを連れて、同じ桜の下に集う。どんな想いでその景色を見ていたんだろうか。私は大学から一人、ふるさとを出てしまったので、その輪の中には居なかった。離れた東京で桜の開花のニュースを耳にする度に、子供の頃に出掛けた“羊山公園”の桜に想いを馳せた。居ても立ってもいられず秩父に向かった。家にいる母親を誘って二人で“羊山公園”を歩いた。五十歳を過ぎた息子に連れられて、八十歳を過ぎた母親が今見ている“桜満開”の景色はどんなだろうと想像しながら。時々振り返って母を見ると、なんだか私がまだ小さかった頃の若い母親の顔になっていた。一回でも多く、一緒に来ようと心に誓った。撮影:林家たい平 林家たい平1964年、埼玉県秩父市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、林家こん平に入門。2004年からNTV「笑点」のメンバーとなり、お茶の間で人気に。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2016年、NTV『24時間テレビ39愛は地球を救う』でチャリティマラソンランナーに抜擢されるなどTV出演も多数。今後の落語界を担う、今最も注目を浴びる落語家。21林家たい平のVol.18

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る